第134号 日本に広がる貧困
2008年5月13日発行
5月3日の憲法記念日、岐阜県大垣市で行われた集会『平和・人権・民主主義 を考える』西濃憲法集会2008「生きさせろ!」に行ってきました。
「生きさせろ!」となかなかすごい題名の集会ですが、これは集会の講師を務 めた文筆家の雨宮処凛(あまみやかりん)さんの書いた同名の本にちなんだも の。雨宮さんは、自身のフリーター生活の体験から、フリーターや派遣労働者 などの非正規雇用の人たちの労働運動を支援。彼らの厳しい状況を執筆活動を 通じて世の中の人に知らせる活動をしています。
本を読むと、本当に「生きさせろ!」と叫びたくなる厳しい生活を強いられて いる非正規雇用の人たちの気持ちがわかります。
ゴールデンウィークがフリーターの人たちにとって厳しい時期だというのは、 雨宮さんの話で初めて知りました。彼らは時給で仕事をしているため、 会社が長期の休みになってしまうと、即収入がなくなってしまうのです。
同じ理由で、お盆や正月も、給料が保証されている正社員には会社が休みでう れしい時期ですが、フリーターをしている人たちには、厳しい時期なのだとい うことです。その時期にだけ単発で、日雇い派遣の仕事をしてしのうでいる人 たちがいるのだとか。
増加しているフリーターや派遣労働などの非正規雇用の人たち、その中でも 「ワーキングプアー」と呼ばれる人たちに共通する問題は、だいたい以下のよ うに整理できます。
- 正社員と比べて、極端に賃金が安い
- 社会保険に加入できない
- 給料以外の労働条件、労働環境も悪く、体や心を病みやすい
- 一度非正規労働者になると、なかなかそこから抜け出せない
- そんな弱い立場の人たちを狙って儲ける「貧困ビジネス」が存在する
- それがより彼らを経済的に苦しめ、生活を破たんさせている
講師の雨宮さんは、自身が24歳頃までフリーター生活をしていて、その間にお 金がなくて家賃が払えず、アパートを追い出されそうになったことが何度もあ ったといいます。その後25歳のときに本の出版が決まり、フリーター生活から 脱却できたといいますが、自身の体験から、フリーターやネットカフェ難民な どの人たちの生活の実態を調査。本や雑誌の記事などを通じて問題提起してい ます。同時にそうした人たちの労働運動の支援活動も行っており、自身の体験 や活動を通じて知った日本のフリーターや派遣労働といった非正規雇用の人た ちの現状を語ってくれました。
日本の場合、同じような仕事をしていても、社員とアルバイトの賃金格差はた いへん激しく、時給700円程度のアルバイトでは、毎日8時間フルで働いても、 1か月に12万円の程度の収入にしかなりません。そんな給料では、アパート を借りて暮らすことは難しく、諸事情から親などに頼ることができず、一人で 暮らさざるを得ない人にとっては、アパートを借りるために必要な敷金や礼金 を払うことができません。
社員で働いている人なら貯金があるので、アパートを借りるために、一度に数 十万円程度の支払いをすることは可能なわけですが、アルバイトしかしていな い人だと、あまりにも賃金が安いので日々暮らすのに精いっぱいで、なかなか 敷金を貯めることができません。
敷金が貯められないと、そういうものがいらない物件があるので、そうしたと ころに住むことになります。しかし、「入りやすい所は、追い出されやすい」。 一日でも家賃の支払いが遅れたら、出ろと言われます。
インフルエンザで寝ていて支払いに行けなかった人が、荷物を部屋の中に残し たまま、支払いが遅れたことを理由に、部屋を追い出されたということもあっ たといいます。
荷物を残したまま部屋を追い出されるとか、外出中に部屋に鍵がかけられて、 入れなくなるというのは、よくあることです。
敷金がいらないと宣伝しているレオパレスも、その代わりに支払が遅れると、 すぐに退去を求められます。
そうして住む場所がなくなった人は、住所もなくなってしまうわけで、働きた くても普通のアルバイトではなかなか雇ってもらえません。日雇い派遣のアル バイトをせざるを得なくなります。フルキャストとかグッドウィルといった毎 日違った現場に労働者を派遣する会社に登録し、仕事をするのです。
派遣先企業の中にはアスベストが舞っているような劣悪な現場や、危険な現場 もあるといいますが、もらえるお金は一日6,000円程度。ネットカフェや24時 間営業のマクドナルドなどを住まいにするしかありません。しかし、給料が安 く、毎日出ていくお金が多すぎるので、アパートを借りられるだけのお金は貯 まりません。
ネットカフェ暮らしだと、その料金は安くても毎日1,500円くらい。荷物をコ インロッカーに預けないといけないので、そのお金もかかります。食事も自炊 できないから割高。たまには風呂に入りたいと思うと、サウナなどに行くこと になり、またお金がかかります。「毎日旅行をしているようなもの」だし、着 替えなどでロッカーを開ける度にお金を取られるのも、「タンスを開ける度に お金を払うようなもの」だと雨宮さんは言います。
収入が少ないうえに、普通に家で暮らしていればほとんどお金がかかならいよ うなことにどんどんお金が出てしまう。そして彼らを狙った「敷金不要物件」 や、労働者の賃金をピンはねして儲ける日雇い派遣業者のような貧困ビジネス がはびこるようになり、より厳しい状況に彼らを追い込みます。
集会があった愛知や岐阜地区では、トヨタ関連の会社での非正規雇用の人たち の扱いがひどいということでした。ここ静岡でも良く見ますが、愛知などの自 動車関連の工場で働くと、1か月に30万円以上になるという求人広告が盛んに されています。
彼らは景気の悪い東北や北海道などでも活発な求人活動を行い、短期で働く労 働者を募集します。しかし、実際には「30万円」という額は相当残業をしない と届かない額で、しかも寮費で数万円、寮のテレビやエアコン、炊飯器にまで 使用料金を課し、給料から差し引きます。電気代も不当に水増しして取られる こともあります。しかも、「3か月以内で辞めた場合は、帰りの旅費を出さな い」という会社もあり、会社の都合で契約を打ち切られたのに、北海道へ帰る お金をもらえず、お金がなくて帰るに帰れず、愛知あたりにそのまま残らざる を得なくなっている人たちも出ています。
「乾いた雑巾をさらに搾る」と言われるトヨタ関連の会社のひどい労働条件に ついては、週刊金曜日の本「トヨタの正体」に詳しく出ています。
正社員の労働強化もすすんでいる
ここまで派遣労働やフリーターなどの非正規雇用の人たちのことを書いてきま したが、 最近は、正社員だからといって、安泰な立場にはいられなくなって きていて、過酷な勤務を強いられている人が多くなっています。「なんちゃっ て管理職」と呼ばれるような人たちが代表的な例です。
1日に15時間もあるいはそれ以上も働かされているのに、「管理職」を理由に 残業手当は出ない。睡眠不足や過労で、精神障害を発症する人や過労死する人 が続出しています。
雨宮さんの弟さんは、ヤマダ電機の社員をしていました。就職氷河期のときに 社会に出たため就職ができなくて、長いフリーター生活の末にやっとつかんだ 正社員の座でした。
しかし、毎日深夜2時過ぎまで働くことを強いられる職場で、1日中立ちっぱ なし。しかも、休憩時間はその間に30分しかない。夜も夕食も食べさせずに深 夜まで仕事をさせる。しかも、残業代は何時まで仕事をしても、夜の10時半 までしか支払われません。少しでも睡眠時間を取るため、家に帰ると食事も取 らずに寝てしまう。朝は目覚まし時計を5個もつけて、無理やり起きて、這う ようにして出勤する。朝食もなし。1日1食程度しか食べなくて、睡眠時間も 少ない。あまりにも過酷な生活のため、弟さんはみるみるやせていったといい ます。
しかし、そんな状態でも、彼は仕事を辞めませんでした。つらいフリーター生 活の後にやっと手にした正社員の職。失ったらまたフリーターに逆戻りしてし まう。そんな思いがあったようです。しかし、過労死の心配が大きいため、家 族が必死に説得。なんとか辞めさせることができました。辞めたその日は、朝 の4時まで仕事をさせられたそうです。
フリーターのような非正規雇用だとあまりにも賃金が安すぎて、暮らして行け ない。正社員であっても、死ぬほど働かされるから、時給換算では結局アルバ イトとたいして変わらない。過労死の危険さえある。うつなどの精神障害も多 発しているというのが、今の日本の社会です。
そんな人たちを救うセイフティネットが日本は不十分で、生活保護を受けるの は、若い人だとほとんど無理。精神障害を起こして、初めて「障害年金がもら える」など救済の手が差し伸べられるといいます。
途上国の農民や労働者たちが強いられている過酷な生活も解決しなければなら ない問題ですが、日本も今、かなり途上国に近い社会になりつつあるようです。
途上国でよく見られるように、お城のような邸宅に住む信じられないような大 金持ちがいる一方で、大多数の人たちがどうしようもなく貧しくて、そこから 抜け出せない社会が健全とは思えません。
話を聞いていて、この国や子どもたちの未来が心配になりました。雨宮さんも 強く批判していましたが、「フリーターにならないための教育」なんて子供に している場合ではない。フリーターになる人たちに問題があるのではなく、社 会のシステムがおかしいのだから。
解決のためには、多くの人が関心を持つことだと思います。後期高齢者医療制 度や道路特定財源の問題のように、関心が高まれば、企業や政府への圧力にな るはずです。
編集後記
「給料が安いなんて言えなくなちゃった」
某フェアトレード会社のスタッフが言っていました。
確かに、フェアトレードの会社の給料は以前は安かったです。今でも安いこと は安いのですが、しかし、今の非正規で働く人たちが急増している現状だと、 そんな人たちに比べたら、かなり良い給料をもらっているといえます。社会保 険もあるし、産休とか育児休暇の制度もあるし、年金にも加入しています。
だから、「給料が安いなんて言えなくなちゃった」のです。実際、以前と比べ ると、労働時間や給料の面が、かなり改善されてきています。
以前は終電にも乗れないほど遅くまで日常的に働いたりしていましたが、最近 はそこまですることは、なくなってきています。
結婚して子供を産むなどということは、入社前に決めていなければまず無理だ ったのが、今では2人目の子供が生まれるスタッフも出てきています。
「家を買った」なんていうスタッフもいて、びっくりしました。
フェアトレードの会社では、ほかの会社のように派遣社員やアルバイトをこき 使ったり、スタッフを(昔みたいに)死ぬほど働かせたりはしていませんが、 売上を伸ばし、会社も成長しています。
良い意味で、業務を効率化できるようになったからでしょう。以前は今考える と、余計なことに時間や労力を使っていました。
そんな具合に、働く人たちの生活を良くしながら、会社も成長する方法はある はず。会社の株主や経営陣が大儲けをする一方で、大多数の社員やアルバイト が使い捨てにされている今の状況は、明らかにおかしいと思います。
また、好きで条件の悪い非正規雇用で働く人は少なく、必ずしも彼らのやる気 や能力が低いからそんな働き方をしているわけでもありません。
仕事先の正社員に差別的な扱いをされて傷ついている派遣の人たちがたくさん います。
社員で働いている人たちには、そんな人たちを、人として尊重した扱いをして いただきたいと思います。
雨宮処凛さんの本「生きさせろ!」は、若い人たちを中心とする非正規雇用の 人たちの直面している本当に信じられないような現状が書かれています。こん なことを放置しておいて、日本が「先進国」などとは言えないでしょう。 一読をおすすめします。
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